今回はティノ・ロッシTino Rossiの歌う「怒れるパリParis en colère」。1966年のレネ・クレマンRené Clément監督のアメリカ・フランス合作映画「パリは燃えているかParis brûle t-il?」で用いられた曲です。この映画は、1944年8月19日のレジスタンスの蜂起開始から、アメリカ軍の援護を受けて、8月25日にフランスの首都パリが解放されるまでの戦い、すなわち「パリの解放Libération de Paris」を描いたもので、イヴ・モンタンYves Montandも出演しています。
21日の日曜日に、スブリームさんによる公開レッスン「マスター・クラス」がおこなわれました。曲目は、「そして今はEt maintenante」(2名)、「想い出のサンジェルマン・デプレOù Es-Tu Passé Mon Saint Germain Des Prés」、「わが心の風車Les moulins de mon cœur」、「唇によだれL'eau à la bouche」、「二つのギターLes deux guitares」、「コルヴィザール通りの霧Brouillard dans la rue Corvisart」(私たち、ノニー&カザンのデュオ=下の写真)の6曲。
アラン・スーションAlain Souchonの「リヴ・ゴーシュRive Gauche」にはリヴ・ゴーシュにゆかりのさまざまな人名が出てくるなかで、「老いたフェレの叫びはまるで嵐だ(Du vieux Ferré les cris la tempête)」というフレーズがありましたが、フェレLéo Ferré自身、リヴ・ゴーシュの地名を冠した「サンジェルマン・デ・プレでÀ saint-germain-des-Prés」(1961年)や「カルティエ・ラタンQuartier latin」を歌っています。この2曲を続けて取り上げます。
今回は「サンジェルマン・デ・プレでÀ Saint-Germain-des-Prés」。この曲には、ヴェルレーヌPaul Marie Verlaine(1844-1896)、アポリネールGuillaume Apollinaire(1880-1918)、ラシーヌJean Racine(1639-1699)、ヴァレリーAmbroise Paul Toussaint Jules Valéry(1871-1945)といった詩人たちの名前が出てきますが、彼らはフェレFerré(1916-1993)よりひと時代前の詩人たち。「彼らとランデヴーする」と表現して往時の詩人たちへの共感を示しているようでありながら、実は、サンジェルマン・デ・プレで現在生きている芸術家たちのことを言っているのでしょう。
À Saint-Germain-des-Présサンジェルマン・デ・プレで
Léo Ferréレオ・フェレ
J´habite à Saint-Germain-des-Prés
Et chaque soir j´ai rendez-vous
Avec Verlaine
Ce vieux pierrot n´a pas changé
Et pour courir le guilledou 注1
Près de la Seine
Souvent l´on est flanqué 注2
D´Apollinaire
Qui s´en vient musarder
Chez nos misères
C´est bête, on voulait s´amuser
Mais c´est raté 注3
On était trop fauchés
私はサンジェルマン・デ・プレに住んでいる
そして毎夜私はランデヴーするImage may be NSFW. Clik here to view.
ヴェルレーヌと
この年老いたピエロは変わっていない
女をあさるために
セーヌ河のほとりで
僕たちはしばしばアポリネールを同伴する
彼はぶらっと訪ねて来たんだ
僕たちの侘住居に
ちくしょう、僕たちは楽しくやりたかった
だがしくじったんだ
僕たちはあまりにも文無しだった
Regardez-les tous ces voyous
Tous ces poètes de deux sous
Et leur teint blême
Regardez-les tous ces fauchés
Qui font semblant de ne jamais 注4
Finir la semaine
Ils sont riches à crever 注5
D´ailleurs ils crèvent 注6
Tous ces rimeurs fauchés
Font bien des rêves quand même 注7
Ils parlent le latin
Et n´ont plus faim
A Saint-Germain-des-Prés
この与太者たちみんなをご覧よ
この三文詩人たちみんなをImage may be NSFW. Clik here to view.
そしてその青白い顔色を
週日が終わらないふりをしている
この文無したちみんなをご覧よ
彼らはとんでもなく豊かだ
しかも死にそうなんだ
文無しのへぼ詩人たちはみんな
なおかつ夢想にふけるのさ
彼らはラテン語を話し
もう飢えちゃいない
サンジェルマン・デ・プレじゃ
Si vous passez rue de l´Abbaye
Rue Saint-Benoît, rue Visconti 注8
Près de la Seine
Regardez le monsieur qui sourit
C´est Jean Racine ou Valéry
Peut-être Verlaine
もしもあなたがたがアベイユ通りを
サンブノワ通りを、ヴィスコンティ通りを
セーヌ河の近くのこれらの通りを通りかかったら
微笑んでいる男性をご覧なさい
それはジャン・ラシーヌあるいはヴァレリー
たぶんヴェルレーヌだ
Alors vous comprendrez, Image may be NSFW. Clik here to view.
以前、レオ・フェレLéo ferréが歌った「旅へのいざないL'invitation au voyage」を取り上げましたが、今回はそれと同様に、詩人シャルル・ボードレールCharles Baudelaireの代表作「悪の花Les Fleurs du mal」の第1部「憂鬱と理想Spleen et idéal」の詩を歌詞とした「踊る蛇Le serpent qui danse」です。これは長く付き合っていた「黒いヴィーナスVénus noire」と呼ばれる黒人混血の女性、ジャンヌ・デュヴァルJeanne Duvalに捧げられた詩の一つ。
レオ・フェレLéo Ferréも「旅へのいざないL'invitation au voyage」と同様、アルバム「悪の華Les Fleurs du mal」のなかで歌っていますが、セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgの曲として取り上げることにしました。タイトルはBaudelaireでLe serpent qui danseは副題。1962年のSerge Gainsbourg N° 4というアルバムに収録されています。
去年の夏、取り上げようと思いながら難しくて諦めた曲があります。ジャック・ブレルJacques Brelの「夏の夕べにJe suis un soir d'été」です。このところの猛暑続きでこの曲を思い出しました。3日間かけてまだ疑問符が多々残っていますが、思い切って出すことにいたします。この曲は、1968年にリリースされた10番目のアルバムJ'arriveに収録されています。
今回は、「パリの夢〜ボリス・ヴィアンに捧ぐRendez-vous à Saint-Germain-des-Prés/Hommage à Boris Vian」というアルバムに収録された「サンジェルマン・デ・プレのランデヴーRendez-vous à Saint-Germain-des-Prés」をご紹介します。ピアノ、ベース、ドラムスのトリオをバックにしたとってもおしゃれな曲で、短い歌詞のなかにミュージシャンの名前がたくさん出てきます。
同じアルバムに収録されているPetit avé pour Rayは、「街角のアヴェ・マリア」という邦題で日本語でよく歌われています→。原曲の音源がどうしても見つかりませんので、歌詞だけをご紹介いたします。英語まじりのフランス語です。日本語の歌詞とまったく違う内容なので、原題に即し「レイのための小さなアヴェ・マリア」とします。
Un homme s'est penduは、黒人差別を題材にしたビリー・ホリデイの「奇妙な果実Strange fruit」を思い出させますが、Petit avé pour Rayは、アメリカの盲目の黒人歌手レイ・チャールズ・ロビンソンRay Charles Robinson(1930-2004)に捧げられたものではないかと私には思われます。彼は、黒人である自らのルーツを遡るように、R&Bやジャズ、ゴスペル、黒人霊歌などのブラックミュージックを取り上げていくなかで、自分の魂を歌う「ソウルミュージック」をあらたに生み出し、「ソウルの神様」と呼ばれています。2004年に、伝記映画「レイRay」が公開されました。
レイ・チャールズ「我が心のジョージアGeorgia on my mind」(ジョージア州歌)
Petit avé pour Rayレイのための小さなアヴェ・マリア(街角のアヴェ・マリア)
Alain Barrièreアラン・バリエール
Toi qui trimballes
Tout ce poids
De solitude
この孤独の重荷を
まるごと
持ち歩いている君
All mess’d up inside
Because of you
君のせいで
気持ちが完全に落ち込んでしまった
Toi qui promène
Aux quatre vents 注1Image may be NSFW. Clik here to view.
Image may be NSFW. Clik here to view.この曲は実は、モンマルトルの有名なシャンソン喫茶「ラパン・アジールAu Lapin agile」のオーナーだったフレデリック・ジェラールFrédéric Gérardへのオマージュとして作られました。1946年、作詞:ミッシェル・ヴォケールMichel Vaucaire、作曲:Daniel White。
6 côté cour「舞台の上手」は役者から見て左手であり、「心臓のある側」ということで、côté cœurと覚えるという。ちなみにcôté jardin「下手」は役者から見て右手であり、jardinの綴りに含まれるdがdroite「右」のdだと覚えるという。côté cœur, côté courは語呂のいい言い回しで「舞台」そのものを示すようだ。ダリダDaridaのBravoという曲の歌詞に、Donnez-moi un bravo côté cœur, côté cour / C´est mon seul mot d´amourというフレーズがある。このsortirは他動詞で、「…を外に出す、追い出す」。